頭から立ちのぼる煙は長生きの秘訣?!

幼い頃、一緒に暮らしていた祖母の頭から時々煙が上るを見て面白かったのを今でも思い出します。祖母は絨毯に両脚を投げ出して座り、両手で椅子の脚をがっちり握り締めていました。突然「あちっ、あちあちちちち…」と言いながら、目鼻が分からなくなるほど顔じゅうをしわくちゃにして熱さに耐えていました。
実は祖母がいつからか頭を無意識にユサユサと振るようになってきて(高齢者では時々見かけることですが)灸師である親戚から教わった父が頭のツボにお灸を据えていたのでした。祖母の頭頂部中心の髪をほんの一部だけ短く切り、‘もぐさ’を小さくひねったものを置いて線香の火で燃やすのです。もぐさが下まで燃えれば肌に火が付く訳ですから、それはもう熱いと言ったらありません。それを一度に数十回繰り返すので、お灸をした後は夏にキャンプファイヤーをした翌日の炭の残りみたいに真っ黒になっています。
私はまだ子供だったので何がどう効いているのか分かりませんでしたが、縁あって自分が鍼灸師になり謎が解けました。父がお灸を据えていたのは『百会(ひゃくえ)』というツボでした。体中には何本もの『経絡』と呼ばれる気の通り道があるのですが、その多くが百会で交差するので非常に重要なツボなのです。痔のツボとして一番有名な百会ですが、上に上がるべきエネルギーを上昇させる働きがあるので、脱肛や子宮脱、内臓下垂など体が部分的に下がりがちの人にも用います。また、祖母のように頭を振る(東洋医学では体内に風が起こって揺れている状態)などの頭部症状にも効果的ですし、自律神経の安定や精神症状の改善も期待できる万能ツボです。
場所は鼻すじを頭部へなぞったラインと両耳の尖端を結んだラインが交差するところで、大抵の方は少し凹んでいます。自分でお灸をするのは難しいですが、指圧をすることは出来ますので覚えておくと便利ですね。
さて、その後の祖母はというと、何年お灸を続けたかは定かではありませんが、晩年にはもう据えなくなっていました。というのも頭を振るのを止めたからです。しかし、祖母が100歳まで天寿を全うできたのは、あの時期のお灸があったからだと思います。『百会』は長寿のツボでもありますから、高齢者が近くにいる方は是非お灸をオススメします。お灸は元々民間療法で一般の人々が行っていました。家族のためにやるのであれば資格は要りませんから、最寄の鍼灸師にツボの場所とやり方を尋ねて挑戦してみてはいかがでしょう。皆さんは着物を着ることがありますか。私はほとんどありません。周りには民謡やお琴などの芸事で着物を着る機会がある人もいますが、やはりそれほど多くはありません。
数年前、海外暮らしになるのをきっかけに知り合いから着物を何着か頂きました。「日本人として正装する機会もあるでしょうから。」と言って頂き貴重なお着物をもらったからには自分で着れるようにならなくてはと思い立ちました。
着付けの指導員の資格を持つ友人に頼んで急遽短期間で着付けを学ぶことになりました。時間が無かったので帯は作り帯にしたのですが、着物を着る部分はしっかり教えてもらいました。若い時に振袖を着せられた時には窮屈で苦しくて重くて…という思い出しかなく、実は着物には良い印象を持っていなかった私。それでも着物好きの友人や昔着物を毎日着ていた母に励まされて頑張りました。
ようやく格好が付くように着れるようになり、家で過ごす時にも練習で着たまま和服で過ごすことが増えました。すると、何か身体が違ってきたことに気付いたのです。洋服で普段感じているような身体へのストレスがほとんど無いのです。具体的に言うと、肩周りが楽で動きやすいというようなことです。スカートの様に足元から風が入って寒いのかと思いきや、脚周りも非常に暖かく快適でした。
そして一番の違いはお腹に力が自然と入るようになったことです。腰紐をいくつも使いますし、その上に帯もしますから、きつくて不自由とばかり思っていました。しかし、きちんとした着方をすると、腰の部分で着物が安定する感覚こそありますが、全く苦しくなく不自由でもありません。
下腹の丹田というところは生命エネルギーが溜まる重要な箇所であると知られていますが、着物を着るとそこに意識が自然と行くので、エネルギー状態が良くなるのではないかと考えました。姿勢も良くなり、全身に力がみなぎって元気になっていく実感があったのです。
日本は「腹の文化」と言われますが、「腹を据える」「腹を割って話す」「腹を決める」などなど私達にとってかつて腹が重要であったのは間違いありません。それは着物を着る文化であったからこそなのだと思います。今、暮らしやすさを優先して全てが欧米化していますが、洋服に関しても私達は得たもの以上に失っているのかも知れません。
海外で人に見せるためだけではなく、自分が本来日本人として持って生まれた腹の力を蘇らせるためにも着物に袖を通すことは続けていきたいと思いました。
日本でお過ごしの皆さん、是非機会を見付けて自分で和服を着てみて下さい。日本人の強さ、柔軟さ、美しさを体感して健康になる道が開けますよ。

2017年03月31日