ブッカー賞受賞が描く 忘れられた巨人

『日の名残り』でイギリス最高の文学賞・ブッカー賞を受賞したカズオ・イシグロの長編小説です。舞台は6世紀頃のイングランド。アーサー王の死後、ブリトン人とサクソン人が争いを続けています。集落で孤立したアクセルとベアトリスの老夫婦は、遠い地で暮らす息子をたずねて、長年暮らした村を出て旅をします。この地では、竜の吐く息が霧となって漂い、人々の記憶をあやふやにしてしまうのです。二人は岩だらけの丘を越え、雨が降る荒野を渡り森を抜ける途中、アーサー王の老騎士や竜退治に向かうサクソン人の戦士、呪いの傷を持つ少年などに出会います。さらに、鬼や妖精が出てきて、物語は謎に満ちた幻想的な雰囲気に包まれて進みます。最後に竜が倒されたとき、すべての人々の記憶がよみがえり、忘れられた真実が明らかになるのですが、それと同時に、再び激しい戦いが始まるのでした。深い愛に結ばれた老夫婦も、過去の罪に苦しめられます。記憶を取り戻すのは正しいのか、それとも忘れられたままのほうがいいのか。老夫婦の行く末はどうなるのか。読者に様々なことを考えさせる、静かで深い物語です。

2017年03月31日